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岸田文雄首相は2月9日、昨年6月の就任後初めて来日したフィリピンのマルコス大統領と官邸で会談し、東・南シナ海で海洋進出を強める中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指し、連携していく方針を確認した。自衛隊とフィリピン国軍による共同訓練の強化でも一致し、米国も加えた3カ国の安全保障協力を促進する。
首相は会談の冒頭、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持、強化に向けて連携を極めて重視している」と述べた。マルコス氏は「私たちは民主主義、人権の尊重、法の支配といった基本原則について共有している」と応じた。
首相は会談で、フィリピンに対し、インフラ整備推進などのため令和4、5両年度で計6千億円の支援を表明した。
また、日本がフィリピンに求めていた、広域強盗事件で「ルフィ」などと名乗り指示を出していたとみられる4容疑者の強制送還に言及した可能性がある。
両政府は自衛隊がフィリピン国内で行う人道支援や災害救助活動を円滑化するための取り決めに署名した。現状では活動ごとに部隊規模などの取り決めを交わしているが、新たな取り決めによって手続きが不要となる。自衛隊とフィリピン軍が相互訪問する際の手続きを簡素化する「円滑化協定(RAA)」の締結につなげる狙いがある。
台湾有事に備え
政府がフィリピンとの安全保障協力の深化を米国とともに打ち出すのは、南シナ海で実効支配の動きを活発化させる中国への抑止力を向上させるためだ。日米を中心とする同盟国・同志国の戦略的パートナーとしてフィリピンを位置付けることで、台湾有事が発生した場合に対応できる足場を確保する狙いもある。
フィリピンは海上交通路の要衝で、九州、台湾、南シナ海を結ぶ「第1列島線」に位置する。台湾とはバシー海峡を挟んで約300キロの距離にあり、戦略的重要性は極めて高い。
米国とフィリピンは同盟関係にあるが、安保協力に消極的だったドゥテルテ前大統領時代は関係が一時停滞した。しかし、昨年6月に就任したマルコス大統領が米国との関係改善に乗り出したことを機に、日米両政府もフィリピンとの連携強化を加速させている。
オースティン米国防長官は今月2日にフィリピンを訪問し、米軍に使用を認めるフィリピン国内基地を5カ所から9カ所に増やすことで合意した。台湾有事の際、在日米軍とともにフィリピンの基地が拠点になることも想定される。
政府も9日の日比首脳会談でフィリピン重視の姿勢を鮮明にした。フィリピンの沿岸警備隊の機能強化支援や防衛装備品・技術移転の推進を確認。南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で軍事利用を念頭に人工島の整備を進める中国に対抗するため、フィリピンの海洋安保能力を向上させる狙いがある。
ただ、中国もマルコス政権の引き込みに動いている。習近平国家主席は1月にマルコス氏と北京で会談し、南シナ海問題の平和的解決に向け、外交当局間での直接対話の枠組みを創設することで合意した。農業やインフラ整備、デジタル分野などに関する協力文書にも調印した。
政府内にはフィリピンへの重点的な支援は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の足並みを乱すとの批判もある。しかし、外務省関係者は「ASEANはそれぞれの事情を抱えて一体性はない。ならばフィリピンを徹底的にこっちに取り込むべきだ」と指摘。中国が軍事的圧力を強める現状も踏まえ、フィリピンとの連携強化の必要性を訴える。
筆者:広池慶一(産経新聞)